読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

村上龍(著)『69 sixty nine』を読んで

Vol.8
69 sixty nine
村上 龍 (著)

 

  

f:id:goldenvirginia:20160627195243j:plain

 

先日お会いした方から村上龍の69 sixty nineをいただいた。ぼくが村上龍という人物に興味が湧いたことをブログで書いたのを見てわざわざプレゼントして下さった。今日はこの本とあとがきを読んで感じたことを少しだけ書く。

 

あらすじ

1969年、東京大学は入試を中止した。ビートルズのメロディーが流れ、ローリング・ストーンズも最高のシングルを発表し、ヒッピーが愛と平和を訴えていた。僕は九州の西の端の、基地の町の高校三年生。その佐世保北高がバリケード封鎖された。やったのは・・・もちろん、僕とその仲間たち。無垢だけど、爆発しそうなエネルギーでいっぱいの、明るくキケンな青春小説。

 

18歳の高校生に限らず、人がなにか行動を起こすときにはそれなりの動機が必ずある。特に多くの男子高校生が持つ『異性にモテたい』という願望は巨大なエネルギーの源だ。学生運動で揺れる1969年、主人公のケンはそんな不純な動機から様々な計画を企てる。

 

あとがき

この小説は村上龍の自伝的な小説だ。あとがきが素晴らしかったので一部引用する。

こんなに楽しい小説を書くことはこの先もうないだろうと思いながら書いた。この小説に登場するのはほとんど実在の人物ばかりだが、当時楽しんで生きていた人のことは良く、楽しんで生きていなかった人(教師や刑事やその他の大人達、そして従順でダメな生徒達)のことは徹底的に悪く書いた。

楽しんで生きないのは、罪なことだ。わたしは、高校時代にわたしを傷つけた教師のことを今でも忘れていない。

数少ない例外の教師を除いて、彼らは本当に大切なものをわたしから奪おうとした。

彼らは人間を家畜へと変える仕事を飽きずに続ける「退屈の象徴」だった。

そんな状況は、今でも変わっていないし、もっとひどくなっているはずだ。

だが、いつの時代にあっても、教師や刑事という権力の手先は手強いものだ。

彼らをただ殴っても結局こちらが損をすることになる。

唯一の復しゅうの方法は、彼らよりも楽しく生きることだと思う。

楽しく生きるためにはエネルギーがいる。

戦いである。

わたしはその戦いを今も続けている。

退屈な連中に自分の笑い声を聞かせてやるための戦いは死ぬまで終わることがないだろう。

 

ぼくは感情を感じるために生きている。

一瞬を楽しむため。一瞬を悲しむため。一瞬を喜ぶため。

これ以外に生きる意味はないと思っている。

 

誰かと比較しなければ生きていけない人間になりたくない。

でも人間である以上、誰かと比べてしまう。

だから退屈な連中に自分の笑い声を聞かせてやるのは、不条理なこの世界を生き抜く一つの処世術なのかもしれないなと、思った。

 

退屈な連中はこの小説を読んでみたらいいと思う。心の底から、ただ、笑える。 

69 sixty nine (集英社文庫)

【宇多丸絶賛】文化系のためのヒップホップ入門

ヒップホップ 音楽 アメリカ
Vol.7
文化系のためのヒップホップ入門
長谷川町蔵 (著), 大和田俊之 (著)

 

 

f:id:goldenvirginia:20160525211809j:plain

 

 

 

「ラップ?ヒップホップ?ダサいよね。」

 

黒人文化をルーツに持つヒップホップという音楽ジャンルは、それが興味のない人にとっては確かにダサいかもしれない。「YO!チェケラッチョ!」のようなラップ特有の言い回しやルーズな服装ばかりに目が行きがちで傍からすれば取っ付きにくい音楽だろう。テレビで頻繁に取り上げられる「親に感謝!」的なラップもヒップホップに対する偏見を助長している原因の1つだ。

しかしヒップホップ本来の魅力は表層的な言葉遣いやファッションとは異なるところにある。文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002)はヒップホップというジャンルについて様々な角度から平易かつ分かりやすい口調で説明し、その音楽の奥深さや影響を教えてくれる。

 

ヒップホップはゲーム

未だに"ヒップホップ"="社会批判"というイメージはよく強調される。しかしそれはヒップホップの持つ様々な要素のイチ側面に過ぎない。ラップという表現技法はその手法そのものがユニークである。自らの経験を切り口に『韻』を踏みながらビートに言葉を乗せて自分のスキルを誇示するいわばゲームのようなものだ。

 

長谷川: ヒップホップはあくまで、みんなが漠然と考えていることを気の利いた言い回しでラップできれば勝ち、っていうゲームなんですよ。 

 

ドロップアウトとドロップイン

ロックとヒップホップはしばしば対比的に扱われる。本質的に、ロックは若者の満たされた日常のアンチテーゼとして昇華された音楽だが、ヒップホップは正反対、成り上がりの"手段"として始まった。

 

長谷川:まずロックという音楽がなにを目指しているのかを考えると、要するに、「資本主義社会の中核を担う中産階級からのドロップアウト」ですよね。

大和田:そうですね。ある音楽研究者の言葉を借りるならば、労働者階級の「反抗」や「抵抗」というイメージを郊外の中産階級の若者にファンタジーとして抱かせるのがロックだと。(中略)

長谷川:でもヒップホップは正反対なんです。資本主義から締め出されちゃっている人が、資本主義に参入していくための手段として始める音楽だから。「ドロップアウト」ではなく「イン」なんです。

 

本書ではこういった他ジャンルとの比較や音楽の起源、政治的思想など幅広い角度からヒップホップとはなにかを初心者にも分かりやすく教えてくれる。

 

宇多丸も絶賛のヒップホップ入門書

ライムスターの宇多丸氏もTBSラジオ『小島慶子 キラ☆キラ』(2012年に打ち切り)で本書について触れている。

宇多丸

日本ってヒップホップっとはなんぞやというところの遥か手前の『偏見』で止まっちゃってる人がすごい多いんですよ。ヒップホップってチェケラッチョでしょ?なんか太いズボン履いて恐い人がやってるんでしょ?みたいな。その時点でイメージだけで止まっちゃってて。
例えば洋楽ファン、ロックファンは物凄く太い主流として音楽シーンの中にあるんだけど、その音楽をよく聴いているロックファンの中でも、ヒップホップ以降のアメリカ音楽のメインストリームの在り方っていうのがある、ということを理解しないで「ヒップホップは俺苦手だから」って人が多いってのが事実だと思うんですよ。
その理由にはぼくらの啓蒙活動が足りなかったのに加えて、ヒップホップ解説書みたいなものはあるんだけど、どうしても門外漢に向けた言葉になっていかなかったところがあるのかなと。特に最近はジャンルが細分化しているせいもあってヒップホップ専門の言葉になっちゃって。そういうところで”文化系のための”ってなってるけど早い話が”ヒップホップって苦手だ、と思ってる人のための”ヒップホップ入門なわけですよ。
そもそも大和田さんの方はずっとヒップホップ苦手だった。そしてあるところで楽しみ方が分かったとおっしゃってて。なのでその視点で尚且つ凄く外に向けて分かりやすく口語で書かれてて本当にいいなという風に思うんです。

 

 HipHopにちょっと興味があるけど...って人におすすめ

 ヒップホップという音楽に興味がある。いくつか音源を聞いてみたけどどんな音楽ジャンルなのか腹落ちしていない。ヒップホップの歴史をしっかり勉強したい。

そんな人達に心からおすすめできる入門書だ。対談形式で話が展開されるのでとても読みやすくかつ濃い内容となっている。

文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002)

【書評】10億ドルを自力で稼いだ人は何を考え、 どう行動し、誰と仕事をしているのか

ビジネスマインド マネー
Vol.6
10億ドルを自力で稼いだ人は何を考え、
どう行動し、誰と仕事をしているのか
ジョン・スヴィオクラ (著), ミッチ・コーエン (著), 高橋 璃子

 

 

f:id:goldenvirginia:20160514151644j:plain

 

 

 

巨万の富を得た億万長者は一体わたしたちと何が違うのか?本書はこのシンプルな問いに答えを提示する。2012年フォーブス長者番付の資産10億ドル保有者いわゆるビリオネアのリストを入手し、その中から120人に調査対象を厳選。夢のような大金を実際に掴んだ人のビリオネアの行動様式を分解しその特徴について解説している。

本書で繰り返し述べられていることは、富を築くのに必要不可欠なものは出生や運、学歴などではなく、ビリオネア特有のマインドだということ。以下がジョン・スヴィオクラらが切り口として選択した5つの特徴的なマインドだ。

 

ビリオネアのマインド

  1. 共感力と想像力で未来を描く
  2. 最速で動き、ゆっくりと待つ
  3. 創造的にルーティーンワークをこなす
  4. 現在の金銭的損失よりも将来の機会損失を恐れる
  5. 自分とは正反対の人を仲間にする

 

上記の特徴を眺めていると、起業家にとっては至極当然のスキルのように見えるかもしれない。しかしこれらは頭で理解していても、実際に習慣化して継続的に行動に移すことができている人はそう多くはない。

 

本書の画期的なところは、自分の力で富を得た成功者が様々な場面でどのような行動を選択したのかをかなり具体的に紹介している点だ。

 

また華々しい成功の裏に隠れた数多くの失敗について具体的な記述がなされている点も本書の説得力に繋がっている。 特に"3.創造的にルーティーンワークをこなす"で紹介されるエピソードは日常のなかにも数多くのビジネスチャンスやアイディアが眠っていることをわたしたちに教えてくれる。

凡人が成功を掴むためのマインドとはなんなのか、そのエッセンスが凝縮された一冊といえる。現状から抜け出し、自らのマインドを改革し成功を掴みたい方は一度手にとってみてはどうだろう。

10億ドルを自力で稼いだ人は何を考え、どう行動し、誰と仕事をしているのか

ファイナンシャル教育の第一歩に | 経済ってそういうことだったのか会議

ビジネス書 経済
Vol.5
経済ってそういうことだったのか会議
佐藤雅彦 (著),竹中平蔵 (著)

 

 

f:id:goldenvirginia:20160428165546j:plain

 

 

"経済"という言葉を毛嫌いする人は多い。金融取引等で巨額の富を得る拝金主義の誰かしらを思い浮かべる人もいるかもしれない。少なくともぼくは昔そうだった。経済という概念に対して漠然としたイメージしか持ちあわせていなかったため、テレビやネットで流れるゴシップ的な金儲け好きの悪い人と"経済"が無意識に紐付けされていたためだと思う。

経済とは誰かがなにかを生み出すこと、つまり生産活動のことだ。広義の経済活動には、例えば主婦が家族に振る舞う夕食を作ることも含まれる。金銭的なやりとりは発生しないがれっきとした経済活動だ(隠された経済とその在処|富の未来 上巻 | - ひきこも書店 )。

基本的なファイナンシャル教育を受けていない方にとって『経済ってそういうことだったのか会議』は"お金に関するイロハのイ"を学ぶことができる良書。経済や金融に関する基礎的な多くの知識を網羅し解説してある。

この本は元政治家で金融・経済のプロである竹中平蔵とピタゴラスイッチで有名な佐藤雅彦氏による対談をまとめたもので、非常に読みやすい。第一版は2000年とかなり古い書籍だが、もしこれから経済について学びたいのならば、1つのトピックに関する専門書をいきなり購入するのではなく、経済という概念を俯瞰できる書籍から手にとってみてはどうだろう。 一読の価値があると思う。 

経済ってそういうことだったのか会議 (日経ビジネス人文庫)

隠された経済とその在処|富の未来 上巻 |

経済 知識社会
Vol.4
富の未来
A. トフラー (著), H. トフラー (著)

 

 

f:id:goldenvirginia:20160415173714j:plain

 

 

2014年の時点で金銭経済の総量、つまり世界全体の年間総生産は78兆ドルだ*1。富の未来が出版されたのは2006年、この時点では約50兆ドルだった。世界全体の金銭経済はこの8年で1.5倍になっている。このお金を世界中の全人口で分配すれば飢餓はなくなるだろう。はじめから話が逸れた。

 

『富の未来』でトフラーは"金銭経済以外の経済"も含む富、つまり紙幣ではない隠れた経済の存在を指摘している。その規模は50兆ドル以上だという。この目に見えない経済は闇で取引される金銭経済のことではない。もっと身近なもので私達は実際に毎日それを生産している。

 

生産消費者の経済、金銭経済

 

何かを生産したらそれを販売することが金銭経済だが、生産消費者の経済ではそうでない。例えばお母さんが毎日振る舞う料理は、愛する家族に向けた生産消費活動だ。金銭的やり取りは基本的にはない。つまり金銭経済に含まれない経済が家庭内で発生している。トフラーはここに目を向けた。

 

わたしたちは金銭的見返りなどなにも考えず、気付くことすらないくらい自然にこのような生産活動を行っている。そしてインターネットの爆発的普及によってこのような無償の活動の影響力は大きくなっている。

 

Wikipediaが良い例だ。なにか分からない言葉や概念と出会うと多くの人がWikipediaでその意味を調べる。コンテンツはボランティアの上に成り立っている。つまり世界中の人々が無償で執筆し、Wikipediaという百科事典を金銭的な見返りを期待せず作り上げているのだ。

 

このような経済を支える人々のモチベーションは様々だが、少なくとも金銭的なものではない。これまでのように価値を金銭に置き換えることの意味は希薄化していく。金銭経済は"金銭経済以外の経済"の上に成り立っている。無給の労働を正確に測ることはできないが、この市場は爆発的に伸びている。自分の満足は自分で作る時代に突入しているのだ。近い将来、わたしたちは生活に関わるものすべてをDIYすることになる。

富の未来 上巻

部下との人間関係に悩む上司が学ぶべき3つのスキル【コーチング入門】

ビジネス書
Vol.3
コーチング入門
本間 正人 (著), 松瀬 理保(著)

 

f:id:goldenvirginia:20160411153210j:plain

 

最近Webサイトの運営法やデザインに関する相談を受ける機会が多い。いざ相談を受けてみると、相手の意図を十分に汲みとり行動を促すということはシンプルだが奥が深く、多角的かつ幅広い知識と経験が必要だと分かった。コンサルティングやファシリテーション関連の入門書を探してるうちに「一冊でコーチングの全体像が掴める易しい本」として紹介されていた本書に出会った。実際に読んでみると評判通り、素人にも分かりやすく体系的に「コーチング」という概念を掴むことのできる良書であった。ポイントとなるところをメモしながら私なりに意見を述べていく。

コーチングの概念

コーチングと一言でいっても著者によって様々な意味レベルで用いられることが多く、読み手もコーチングの概念を捉えきるのは難しかったりする。本書ではコーチングを以下の3種類に大別して整理、解説されていた。

  • ビジネスコーチング

    上司が部下を育成に取り組む際のコーチング

  • プロフェッショナルコーチング

    (1)パーソナル・コーチング(個人客から報酬を受け取り、「電話で週1度30分」「対面で月二回」などの契約形態が一般的)
    (2)エグゼクティブ・コーチング(企業経費として支出され、企業経営に関するテーマを多く扱う)
    (3)社内コーチング(社内にプロのコーチを配置し幹部や管理職の課題解決のサポートを行う)

  • 分野別のコーチング

    「営業コーチング」「転職コーチング」「ダイエットコーチング」など特定のテーマに沿ったものや、「セルフコーチング」などのセルフマネジメントのコンサルなど

 

「本書はビジネスコーチングに重きを置いて解説する」という説明書きだったが、パーソナル・コーチングを学びたい私としても十二分に満足できる内容だった。「クライアントの意見を慎重に聴きポテンシャルを引き出すよう促す」ということはコーチングにおいて最も大切なことだからだ。必要なスキルについてまとめていく。

 

コーチングに求められるスキル

コーチングは何かを人に教えることではない。クライアントの可能性を引き出すこと、それがコーチングだ。そのために本書では主に以下の3つのスキルが重要であると解説されている。

1.傾聴のスキル 2.質問のスキル 3.承認のスキル

 

これらは専門的なスキルなんかではない。むしろ社会活動における必須のコミュニケーションスキルだ。つまりビジネスであろうが、趣味のサークルであろうが、学校だろうが、主婦の井戸端会議であろうがこの3つのスキルは確実に活かされる。それぞれを詳しくみていく。

傾聴のスキル

 「聴く力は人徳に比例する」と言われるほど、コーチングのスキルの中で、最も重要でかつ奥が深いのが、「傾聴」のスキルと言えるでしょう。

 人の話を丁寧に聴くことは意外と難しい。「うん、うん」と同意しているだけでは好感は持たれるかもしれないが会話自体の意味がなくなってくる。逆に一方的に意見を押し付けては相手を置いてけぼりにしてしまう。重要なのは「結論を急がない」ことだ。相手の意見を最後までゆっくり聞いたうえで、相手が自ら思考するような質問に繋げる。

質問のスキル

カウンセリングでは「答えはクライアントが持っている」という前提に立ちますが、コーチングの達人もまた、ほぼ例外なく質問の名人と言えるでしょう。各種の質問を駆使することで、部下が気づかない可能性を明らかにしたり、目標をうまく選ばせたりすることができるのです。 

第四章「質問のスキル」はとても読み応えがある。個人的に印象深かったのは、成功体験を引き出すヒーローインタビューに関する描写だ。インタビュアーはとにかく聞き手に徹して、うまくいった話や事実を丁寧に聴く。そしてその言葉をさらに深く追求する質問を投げかけていく。こうすることで相手本人は自らの仕事を振り返り、成功体験を強く身体い刻みこむことができる。表情は明るく生き生きしてきて、自信を引き出すことができる。この章では他にも「質問活用の基本原則」や「スケーリングについて」詳しく解説がある。 

承認のスキル

人間は動物の一種ですから、脳内の感情をつかさどる部分が刺激されることで、行動の変化が促進されます。ほめられれば、人はうれしい気持ちになり「よし頑張ろう!」とやる気が湧いてきます。そして意欲が湧いてくることで、行動に移すエネルギーが高まるのです。 

承認のスキルは3つの中では重要度が低い。が、コーチングでは必須のスキルだ。承認スキルには2つの側面があるという。「観察能力」というインプット的側面と、「メッセージの伝達」というアウトプット的側面だ。アウトプットでは効果的に部下を叱ることも大事だ。頭ごなしに否定するのではない。次の行動を促すための言葉を「怒り」という感情も混ぜて伝えることで効果的に意思伝達することができる。 

 

読書感想

「コミュニケーションスキル」とはよく聞くワードだが、まずコミュニケーションスキルってなんなんだろう。一般的には「話し方」、「態度」、「社交性」みたいなものの総合力がコミュ力と言われていると思う。でももっと原初的なことが重要なのではないか?とも思う。どういうことか。ぼくが考えるコミュ力の根幹はシンプルだ。

相手とシンクロしようとする姿勢

これだけだ。上記の傾聴・質問・承認のスキルは対話による問題解決のための技術だが、これらはいかに相手と自分をシンクロ(同調)できるかによってその効果が違ってくる。人間同士だから考え方や価値観は違って当然だが、前提を可能な限り共有し、どこに相手との共感のポイントがあり、そしてどこに違いがあるのか、ここを捉えるのがコンサルティングにおいて重要だ。そのためには相手にまずシンクロしてみる。この姿勢があるかどうかでコミュニケーションの密度が異なってくる。

コーチング入門 第2版 (日経文庫)」はこのシンクロしようとする姿勢を持った上で、いかにクライアントをより良い方向に導けるのか、その具体的な方法や考え方を知りたい方には満足できる内容だと思う。コンサルティングのような専門的な職業ではなくとも、部下とよりよい仕事をしたい、うまく指示を与えれるようになりたい。そんな方には諸手を挙げておすすめしたい本だ。

コーチング入門 第2版 (日経文庫)

「2days 4girls-2日間で4人の女とセックスする方法-」の衝撃的な一節を紹介する

男女の深い関係性
Vol.2
2days 4girls
村上 龍(著)

 

f:id:goldenvirginia:20160411153816j:plain

 

衝撃的な一節だった。

 

その男はいつも数百万近い現金を持ち歩いていて、ナミの代金も現金で払った。ぼくは百億円近い金をケイマンの銀行に預けているが信用がないのでクレジットカードを発行してもらえないんです。有名人でもないから銀座のバーでも、こういう会員制のバーでも丁重には扱ってもらえないんですよ。だからいつも財布には百万近い現金を入れてそれとなくそれを見せるようにしているんです。男はまだ二十代後半だった。

 

小さな中庭のある会員制のバーで、その男と夜の十字に待ち合わせた。ナミはそのとき薄い緑色のワンピースを着ていた。昔はローンを払えなくなった女を一晩二百万円とかで買っていたんですよ、わたしとナミのグラスにひどく高いワインを注ぎながら、男はそういうことを言った。最初の頃は女が嫌がることをするのが快楽だと思ってスカトロとかやってたんですけど、どうもそういうのは違うんじゃないかって、経験を積むうちにわかってきました。

 

五百万近いローンを抱えた女を五回に分けて買ったときにそういうことがわかったんです。一回に百万円払って、ただワインを飲んで話をするんですが、ワインはシャトー・ル・パンとかペトリュスとか、ワインのワの字も知らない貧乏な人間にもわかるポムロールのワインを選びました。ポムロールのワインは栓を抜くと刻々と味が変化するでしょう。それで、高級なワインなんか飲んだことのないOLとか人妻にもわかるんですよ。ワインを飲みながら、話をして、何もしないで手をつないで一緒に寝るんです。 

 

そういう女は、半殺しにあってもしょうがないと思って覚悟を決めて来てるんですよ。だから最初は、ぼくが何もしないで、ワインを飲ませて、ただ手をつないで一緒に寝るだけでいいと言うと、感激します。話をするとわかるんですが、そういう一晩百万でからだを売る女というのは本当にバカなんです。二重の意味でバカなんです。保証人のリスクも知らずに判を押してしまう無知さという点でバカだし、自分に一晩百万円の値打ちがあると勘違いしているということでもバカなんです。そういう女というのは肌もカサカサしているし、胸なんかヤギの乳みたいに奇妙に垂れ下がっています。歳というわけじゃないんだけど、貧乏で、何にもいい思いをしていないと、肌とか、髪の毛一本一本までに、生理的に、また具体的に表れてしまうんですね。

 

そうやって一週間に一度の割合で会って五回、五百万円を渡すんですが、そのうち女がおかしくなってくるんですよ。キスもフェラチオもセックスもSMもしないで、ただ話をして手をつないで一緒に一晩寝るだけで百万もらうことに精神が耐えられなくなってくるらしいんです。百万円をもらうときに、ぼくに聞くんですよ。楽しかったかとか、満足してくれたかとか、そういうことを聞くんです。ぼくは適当に答えます。まあね、とか、良かったよ、とか、どうでもいい感じで答えるんです。四回目とか最後の五回目に、その女が、泣き叫ぶんですよ。何かしてくれ、自分に何かひどいことをしてくれ、って。ぼくはそのときむちゃくちゃ興奮したけど、それでも何もしなかったんです。何かしたくなるようなきれいな女ではなかったということもありましたけどね。

 

主人公は精神的に病んでしまった女性をしばらく預かりオーバーホールさせる仕事(プラントハンター)をする男。冒頭の「その男」は主人公のクライアントで、ナミが主人公が直す「壊れてしまった女」だ。

この一節がぼくを強く吸引する理由はそのリアリティにある。

もちろんぼくは誰かに大金を渡され誰かと一晩を過ごしたことはない。だけど、もしぼくが誰かに買われて、同じ状況下に立たされたとしたらどういう風に振る舞うのだろう。

たしかに泣き叫ぶかもしれない。

少なくとも普通の精神状態ではいられないだろう。むしろお金を受け取り黙って帰れる人はいないと思う。それこそ壊れた人間だ。

誰かを精神的に支配することはとてもシンプルなやり方でできる。相手のリアリティを揺さぶり、変性意識状態に連れて行けばいい。あとは無意識にある種の価値観やイメージを刷り込む。こういった方法論は医療現場やカウンセリングなどでも用いられているし、危険な使い方をする人もいる。

なにやら怪しい話になってしまったけど、ぼくが言いたいことは、自分の存在価値をお金と関連付けてしまうと良くないということだ。本来お金というのは「信用」を数値化しただけのただの紙屑(最近では紙ですらなくなりつつあるが)であって、なにかの価値を表すのにはそこまで向いていない。そしてこのことを体感的に理解できていなければ、貧乏になりやすいし、ナミのように誰かに付け込まれる余地を与えてしまう。

ぼくはカウンセリング関連の書籍を調べている過程でこの本に出会った。 今回ご紹介したのは2days 4girlsの一節。男女の主従を切り口に、人間の深い関係性の先にあるものを読者に提示する。ぼくはこの本を読んで村上龍という人物にとても興味が出た。性的で生々しい描写が多いので、そういうのが苦手な人にはあまりおすすめできないが。

2days 4girls (集英社文庫)