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「2days 4girls-2日間で4人の女とセックスする方法-」の衝撃的な一節を紹介する

Vol.2
2days 4girls
村上 龍(著)

 

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衝撃的な一節だった。

 

その男はいつも数百万近い現金を持ち歩いていて、ナミの代金も現金で払った。ぼくは百億円近い金をケイマンの銀行に預けているが信用がないのでクレジットカードを発行してもらえないんです。有名人でもないから銀座のバーでも、こういう会員制のバーでも丁重には扱ってもらえないんですよ。だからいつも財布には百万近い現金を入れてそれとなくそれを見せるようにしているんです。男はまだ二十代後半だった。

 

小さな中庭のある会員制のバーで、その男と夜の十字に待ち合わせた。ナミはそのとき薄い緑色のワンピースを着ていた。昔はローンを払えなくなった女を一晩二百万円とかで買っていたんですよ、わたしとナミのグラスにひどく高いワインを注ぎながら、男はそういうことを言った。最初の頃は女が嫌がることをするのが快楽だと思ってスカトロとかやってたんですけど、どうもそういうのは違うんじゃないかって、経験を積むうちにわかってきました。

 

五百万近いローンを抱えた女を五回に分けて買ったときにそういうことがわかったんです。一回に百万円払って、ただワインを飲んで話をするんですが、ワインはシャトー・ル・パンとかペトリュスとか、ワインのワの字も知らない貧乏な人間にもわかるポムロールのワインを選びました。ポムロールのワインは栓を抜くと刻々と味が変化するでしょう。それで、高級なワインなんか飲んだことのないOLとか人妻にもわかるんですよ。ワインを飲みながら、話をして、何もしないで手をつないで一緒に寝るんです。 

 

そういう女は、半殺しにあってもしょうがないと思って覚悟を決めて来てるんですよ。だから最初は、ぼくが何もしないで、ワインを飲ませて、ただ手をつないで一緒に寝るだけでいいと言うと、感激します。話をするとわかるんですが、そういう一晩百万でからだを売る女というのは本当にバカなんです。二重の意味でバカなんです。保証人のリスクも知らずに判を押してしまう無知さという点でバカだし、自分に一晩百万円の値打ちがあると勘違いしているということでもバカなんです。そういう女というのは肌もカサカサしているし、胸なんかヤギの乳みたいに奇妙に垂れ下がっています。歳というわけじゃないんだけど、貧乏で、何にもいい思いをしていないと、肌とか、髪の毛一本一本までに、生理的に、また具体的に表れてしまうんですね。

 

そうやって一週間に一度の割合で会って五回、五百万円を渡すんですが、そのうち女がおかしくなってくるんですよ。キスもフェラチオもセックスもSMもしないで、ただ話をして手をつないで一緒に一晩寝るだけで百万もらうことに精神が耐えられなくなってくるらしいんです。百万円をもらうときに、ぼくに聞くんですよ。楽しかったかとか、満足してくれたかとか、そういうことを聞くんです。ぼくは適当に答えます。まあね、とか、良かったよ、とか、どうでもいい感じで答えるんです。四回目とか最後の五回目に、その女が、泣き叫ぶんですよ。何かしてくれ、自分に何かひどいことをしてくれ、って。ぼくはそのときむちゃくちゃ興奮したけど、それでも何もしなかったんです。何かしたくなるようなきれいな女ではなかったということもありましたけどね。

 

主人公は精神的に病んでしまった女性をしばらく預かりオーバーホールさせる仕事(プラントハンター)をする男。冒頭の「その男」は主人公のクライアントで、ナミが主人公が直す「壊れてしまった女」だ。

この一節がぼくを強く吸引する理由はそのリアリティにある。

もちろんぼくは誰かに大金を渡され誰かと一晩を過ごしたことはない。だけど、もしぼくが誰かに買われて、同じ状況下に立たされたとしたらどういう風に振る舞うのだろう。

たしかに泣き叫ぶかもしれない。

少なくとも普通の精神状態ではいられないだろう。むしろお金を受け取り黙って帰れる人はいないと思う。それこそ壊れた人間だ。

誰かを精神的に支配することはとてもシンプルなやり方でできる。相手のリアリティを揺さぶり、変性意識状態に連れて行けばいい。あとは無意識にある種の価値観やイメージを刷り込む。こういった方法論は医療現場やカウンセリングなどでも用いられているし、危険な使い方をする人もいる。

なにやら怪しい話になってしまったけど、ぼくが言いたいことは、自分の存在価値をお金と関連付けてしまうと良くないということだ。本来お金というのは「信用」を数値化しただけのただの紙屑(最近では紙ですらなくなりつつあるが)であって、なにかの価値を表すのにはそこまで向いていない。そしてこのことを体感的に理解できていなければ、貧乏になりやすいし、ナミのように誰かに付け込まれる余地を与えてしまう。

ぼくはカウンセリング関連の書籍を調べている過程でこの本に出会った。 今回ご紹介したのは2days 4girlsの一節。男女の主従を切り口に、人間の深い関係性の先にあるものを読者に提示する。ぼくはこの本を読んで村上龍という人物にとても興味が出た。性的で生々しい描写が多いので、そういうのが苦手な人にはあまりおすすめできないが。

2days 4girls (集英社文庫)